棚の奥に、そのパン皿はあった。仙台のアンティークショップ、フランスのものを中心に扱う静かな店だった。厚みのあるリムがぽってりと丸く、釉薬はうっすら黄みを帯びている。手に取ると、思っていたより重かった。

パン皿というのは、フランスの食卓でパンを置くための小ぶりの皿のことだ。今でいうサイドプレートに近いけれど、もっと当たり前に日常にあったものだと思う。リムの厚みと中央のくぼみのバランスが、なんとなく心地いい。

J. Vieillard & Cieとはどんな窯か

裏を返すと、紋章と「BORDEAUX」の文字があった。J. Vieillard & Cie(ヴィエイヤール・エ・シー)、フランス・ボルドーで1845年から1895年頃まで操業した陶磁器メーカーだ。ファイアンス(スズ釉陶器)を中心に、食器や装飾品を作っていた。ボルドー市の紋章を刻んだバックスタンプで知られる、地域に根ざした窯元だったらしい。

釉薬の白は、100年以上の時を経てクリームがかっている。それが今となってはちょうどいい、と思う。

ボルドーの皿に盛るもの

Photo: Eugène Atget / Public Domain

何を置くかと、しばらく考える。バターをたっぷり塗ったバゲット、ひとかけらのコンテチーズ、それから無花果のコンフィチュール。余白を多めに取って、真ん中にちょこんと置く感じがいい気がする。リムのぽってりした厚みが、料理を「乗せている」というより「受けている」ように見せてくれる。

白い皿に白い食べ物を置いても沈まないのは、釉薬のやけが少しだけ皿に色をつけているからかもしれない。朝の食卓に置くと、一日の始まりが少し静かになりそうだ。

カトラリーの跡が語ること

皿の表面をよく見ると、うっすらとカトラリーの跡がある。ナイフで切り、フォークで刺した痕跡。それが19世紀のボルドーの誰かのものだと思うと、急に皿が遠くなる。貫入(かんにゅう)と呼ばれる釉薬のひび割れも、長い時間をかけて入ったものだ。

これを傷とは呼びたくない。使い込まれた痕跡が、この皿の見どころになっている。新品にはない静けさがある。